ジャズを演奏するとき、特にピアノを弾く際に理解しておきたいのが「ジャズ特有の奏法」です。コードを押さえ、リズムを刻めばそれらしくなる——そう考える方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には奥深いルールが存在します。ジャズには、型を理解した上で自由に表現するための独自のスタイルがあり、それを知らずに演奏すると、どこか違和感を覚える仕上がりになってしまうこともあります。より洗練されたジャズ演奏を目指すために、基本的な用語とそのポイントを押さえていきましょう。
1. シェル・ボイシング——シンプルかつ効果的なコードワーク
ジャズピアノを演奏する際、特に左手の使い方に悩まれる方も多いかと思います。クラシックのようにしっかりとコードを押さえると、音が詰まりすぎてしまい、ジャズ特有の軽やかさが損なわれてしまいます。そこで活用したいのが「シェル・ボイシング」です。
シェル・ボイシングとは、コードの中で最も重要な音を厳選して弾く技法です。一般的には、ルート音+3rd+7thを押さえ、場合によっては5thやルートを省略することもあります。
例えば、Cmaj7のコードを弾く際、必ずしも「ドミソシ」とすべての音を押さえる必要はありません。

「ミとシ」だけを使用することで、より洗練された響きを得ることができます。

ジャズの演奏では、音と音の間に余白を作ることも大切な要素の一つなのです。
2. コンピング——リズムの遊び心を取り入れる
ジャズピアノの伴奏は、クラシックのように一定のリズムでコードを弾くのではなく、リズムを意図的にずらすことでグルーヴを生み出します。この手法を「コンピング(Comping)」と呼びます。
コンピングとは、「コードを弾くタイミングを変え、よりリズミカルな流れを作る」技法です。例えば、ジャズでは1拍目にコードを置くよりも、2拍目や裏拍にアクセントをつけることでスウィング感を強調することができます。
以下に、4拍内で収まるリズムの例 をご紹介します。
❌ 機械的な伴奏(リズムの変化なし)

✔️ コンピングを意識したリズムの例

各拍の中で休符や16分音符を活用し、裏拍でコードを入れたり、跳ねるリズムを加えることで、スウィング感を強調します。
スウィング感を演出するには、8分音符を 「付点8分 + 16分」 のように不均等に弾くことで、より弾むような響きを作り出します。コンピングを取り入れることで、単調な伴奏を回避し、より自然なジャズの流れを作ることができます。
3. ウォーキング・ベース——流れるようなラインを意識する
ジャズピアノを演奏する際、左手でベースラインをしっかりと作ることも重要です。特にソロピアノでは、左手がコードの役割だけでなく、ベースラインの役割も担うことになります。そのために活用したいのが「ウォーキング・ベース」です。
ウォーキング・ベースとは、4分音符を使って、ベースラインがなめらかに「歩いている」ような動きを作る技法です。単純にルート音を弾くだけではなく、5thやパッシングノート(経過音)を加えることで、より自然な流れを作ります。
例えば、 「Cmaj7 → Fmaj7 → G7 → Cmaj7」で、
❌C→F→G→Cと単純に弾くのはNG。

✔️ このように、次のコードへとスムーズにつなげる動きを意識することで、より洗練されたジャズのベースラインを作ることができます。

結論:ジャズの型を理解し、表現の幅を広げる
ジャズには「自由な音楽」というイメージがありますが、実際には緻密なルールと型の上に成り立っています。「自由」とは、基本的な型を理解した上で、その中で遊ぶことを意味します。適当に弾いてしまうと、ジャズ特有の魅力が損なわれてしまいます。
シェル・ボイシングで不要な音を削り、コンピングでリズムに変化をつけ、ウォーキング・ベースで流れるようなラインを作る。こうした基本をしっかり押さえることで、より自然で洗練されたジャズ演奏が可能になります。
ジャズの演奏をより深く楽しむために、これらの技法を取り入れ、ご自身の表現を広げてみてはいかがでしょうか。