2025.9.11
「ヨルシカってバンドにはピアニストいないんでしょ?じゃあ、なんでこんなにピアノの音が印象的なんだろう?」
これは、音楽に詳しくない人でも、ヨルシカを数曲聴いたときにふと抱く疑問かもしれません。事実、ヨルシカはn-buna(ナブナ)が作詞・作編曲を担当し、suis(スイ)が歌を担う、2人組の音楽ユニット。固定メンバーにピアニストはいません。
なのに、彼らの多くの楽曲でピアノがまるで「第三の語り手」のように響いているのです。これはなぜでしょうか。
今回のブログでは、そんなことに考えを巡らせてみようと思います。
目次
- ヨルシカの音楽における「余白」とピアノ
- ピアノが持つ儚さと沈黙の力
- 《春泥棒》に見るピアノの役割
- 《だから僕は音楽を辞めた》とピアノの呪い
- ヨルシカがリリースしたピアノ作品と楽譜展開
- ピアノという「もう一人の語り手」
- まとめ:静かに語るピアノの存在感
1. ヨルシカの音楽における「余白」とピアノ
近年のヒットソングは、豪華なアレンジや厚みのあるサウンドで耳を奪う傾向があります。ところがヨルシカは、あえて音数を減らす方向を選んでいます。
そこにあるのは「余白」。感情を押しつけず、聴き手の想像力を呼び起こすための空間です。そして、その余白を成立させるのがピアノの響き。
ピアノの一音が「静けさ」を引き立て、歌声と調和して物語を運んでいきます。まるで映画の中で台詞のないシーンに流れるピアノの伴奏のように、聴く人の胸の中にじんわりと広がっていくのです。
2. ピアノが持つ儚さと沈黙の力
ピアノは打鍵された瞬間から、音が消えていく楽器です。弦楽器のように音を伸ばし続けることはできません。だからこそ、ピアノの音には「儚さ」が宿ります。
ヨルシカの音楽には、まさにその儚さが散りばめられています。鳴った瞬間から消えていく音に、私たちはなぜか「心に残るもの」を感じる。沈黙さえも美しく聞かせられるのがピアノなのです。
3. 《アポリア》に見るピアノの役割
最近のヒット作《アポリア》の冒頭を思い出してみてください。7拍子と8拍子が繰り返される独特のフレーズですが、あまり違和感なく聴けてしまいます。
これは当然、n-bunaさんのフレージングの素晴らしさによるもの。ただ、それだけでなく、ピアノで演奏されていることも重要なのです。
もしあのフレーズが、まったく聞いたこともないような楽器で演奏されていたらどうだったでしょうか。実際、曲中では民族楽器的なサウンドが多用されており、ピアノを使わないという選択もできたはずです。
いかがでしょうか?
不思議なリズムに不思議なサウンドで、注意を引きすぎてしまうのではないかと思います。
そうなれば、途中から入ってくるボーカルにも意識を向けづらいというものです。
その点、ピアノなら悪目立ちしません。
誰しも聴きなれたピアノの音が奏でるからこそ、自然にスッと入ってくるサウンドになっているのです。
4. 《だから僕は音楽を辞めた》とピアノの呪い
ヨルシカを語るうえで外せない楽曲、《だから僕は音楽を辞めた》。ここには特に強烈な「ピアノの象徴性」が描かれています。
歌詞に登場する一節——
「辞めたはずのピアノ、机を弾く癖が抜けない」
これは単なる習慣の描写ではなく、音楽を辞めたはずなのに、身体がまだ音を求めてしまうという矛盾を示しています。ピアノは「音楽そのもの」のメタファーとなり、逃れられない呪縛のように主人公を支配しているのです。
多くの人が幼少期にピアノを習った経験を持ち、やめた後でもふと机を叩いてしまう瞬間がある——この普遍的な記憶と重なり、曲にリアリティを与えています。
5. ヨルシカがリリースしたピアノ作品と楽譜展開
ヨルシカがピアノを大切にしていることは、作品展開からもわかります。
- 2020年に、公式のピアノインストゥルメンタルアルバムをリリース。
- 各種楽譜出版社からピアノアレンジ譜が発売され、初心者用から上級者用まで幅広く対応。
つまりピアノは「歌の伴奏」ではなく、それ単体でヨルシカの世界観を伝えられる存在なのです。楽譜を買って弾く人がいること自体、ピアノが彼らの音楽の中心にいることを物語っています。
6. ピアノという「もう一人の語り手」
ピアニストがいないのに、ここまでピアノが印象的なのは、n-bunaの作曲センスによるところが大きいでしょう。彼はギタリストでありながら、ピアノの音を「物語を語る声」として扱っています。
suisの透明感ある歌声とピアノの響きが組み合わさることで、まるで二人ではなく「三人」で音楽を作っているように感じるのです。
ピアノは「音にならない感情」を語り、歌詞と歌声の隙間を満たすナレーター。これこそがヨルシカの独自性です。
7. まとめ:静かに語るピアノの存在感
ヨルシカの音楽におけるピアノは、ただの伴奏者ではなく「記憶を呼び覚ます装置」であり、「言葉にならない気持ちを語るもう一人の語り手」です。
ピアニストがいないのに、ここまでピアノが印象的に響くユニットは他にそうそうありません。次にヨルシカを聴くとき、ぜひ「歌声の隣にいるピアノの存在」に耳を澄ませてみてください。
もしかすると、あなた自身の過去の音や記憶も、そっと呼び起こされるかもしれません。
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