ピアノの前に座ったとき、ふと「どうしてこの楽器は、右から左までこんなに長いんだろう?」と思ったことはありませんか。現在の標準的なピアノの鍵盤数は、白鍵と黒鍵を合わせて合計88鍵。オクターブに直すと7オクターブと4鍵(1/4オクターブ)という、楽器の中でも類を見ないほど広い音域を持っています。

でも、不思議だと思いませんか? 技術が進歩した現代なら、鍵盤を100個に増やすことも、逆にコンパクトにすることも自由自在なはずです。それなのに、世界中のコンサートホールにあるスタインウェイも、あなたの家にある電子ピアノも、そのほとんどが「88」という数字で止まっています。今回は、この数字に隠された「人間の耳の限界」と「楽器の完成形」にまつわる物語を紐解いてみましょう。

1. かつてのピアノはもっと短かった?鍵盤数の変遷

クリストフォリのピアノ

今でこそ88鍵が当たり前ですが、ピアノが誕生したばかりの頃はもっとコンパクトな楽器でした。1700年頃にピアノの先祖を開発したクリストフォリの時代、鍵盤数はわずか54鍵程度。現代のキーボードよりも少ないくらいだったんです。

しかし、作曲家たちが「もっと低い音で迫力を出したい!」「もっと高い音でキラキラさせたい!」とわがまま(失礼、あくなき探求心ですね)を言うたびに、ピアノの幅はどんどん伸びていきました。モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、そしてリスト。音楽の進化に合わせて、鍵盤数は54、64、73、85…と増え続け、19世紀末にようやく現在の「88鍵」という形に落ち着いたのです。実に200年近くかけて、ピアノは成長し続けてきたわけですね。

2. 「音」として聞こえない?人間の耳の意外な限界

では、なぜ88鍵でストップしたのか。最大の理由は「人間の耳」にあります。

人間が音として認識できる周波数の範囲(可聴域)は、一般的に20Hz(ヘルツ)から20,000Hzと言われています。ピアノの最も低い音(ラ)は約27.5Hz、最も高い音(ド)は約4,186Hzです。 「なーんだ、まだ余裕があるじゃないか」と思うかもしれませんが、実はそうではありません。これ以上低い音を作っても、耳には「音」ではなく「ドスッという振動」にしか聞こえなくなり、これ以上高い音を作っても、音程感がなくなり「金属的なカチッという雑音」にしか聞こえなくなるのです。

つまり、88鍵という範囲は、人間が「音楽」として心地よく聴き取れる限界の音域を、ほぼ完璧にカバーしている状態なのです。これ以上広げても、私たちの耳がついていけない…なんとも切ない、でも神秘的な話だと思いませんか?

3. 楽器を壊すほどの力?物理的な構造の壁

もう一つの理由は、ピアノという楽器にかかる恐ろしいほどの「張力(引っぱる力)」です。

88鍵のピアノには、約230本もの弦が張られています。この弦が鉄骨フレームを引っ張る力の合計は、なんと約20トン! 大型トラック2台分くらいの重さが、常にピアノ一台にかかっている計算になります。 もし鍵盤数を100枚に増やそうとすれば、さらに太く長い弦が必要になり、フレームをより巨大に、頑丈にしなければなりません。そうなれば、ピアノはあまりにも重くなりすぎ、もはや家庭に置くことも、繊細な音色を響かせることも難しくなってしまう。つまり、音響的な美しさと耐久性のバランスが最も絶妙なのが、この「88」というサイズだったのです。

4. 実は例外もある!「88鍵」を超えたモンスターピアノたち

ベーゼンドルファーのインペリアル

「それでも俺は、もっと音が欲しい!」という情熱的なメーカーも存在します。有名なのが、オーストリアの老舗ベーゼンドルファーです。彼らの「インペリアル」というモデルには、なんと97鍵の鍵盤があります。

低い方に鍵盤が増やされているのですが、実はこの増設された低い鍵盤、単体で弾くことは滅多にありません。その目的は、「他の弦との共鳴」。低い弦が張ってあることで、他の音を弾いたときに見えない振動が伝わり、音色に圧倒的な深みと響きを与えるための隠し味なんです。見た目もユニークで、間違えて弾かないように増設部分は白鍵も黒く塗られているんですよ。まさに「音のこだわり」の極致ですね。

5. まとめ|88鍵は、音楽を愛する人類の「到達点」

ピアノが「88鍵」で止まった理由。それは、私たちの耳が「美しさ」を感じ取れる範囲と、楽器という物理的な限界が奇跡的に出会った場所だったからです。これ以上でもこれ以下でもない、88枚の鍵盤。それは、何百年もの歴史の中で人類が辿り着いた、音楽の「黄金比」と言えるかもしれません。

次にピアノに触れるときは、ぜひ一番低い音と一番高い音を鳴らしてみてください。「これが人類が音楽として認められる境界線なんだな」と感じると、いつもの練習がちょっとだけ哲学的な、特別なものに変わるかもしれませんよ。

88鍵の魔法を、あなたの指先で体験しませんか?

Hanaポップスピアノでは、ピアノという楽器の奥深さを楽しみながら、あなたの「好き」を形にするレッスンを行っています。広い音域をフルに使った豪華なアレンジから、少ない音数でも心に響くポップスまで。ピアノの魅力を一緒に探求しましょう!

Hanaポップスピアノを詳しく見る

体験レッスンの申し込みボタン
体験レッスン申し込みの電話番号
無料体験レッスン