2026.8.10

ピアノで新しい曲に挑戦するとき、ピアノの前に座っていきなり楽譜の1小節目から一番最後までの弾き通す「通し練習」ばかりしていませんか?

「せっかくピアノに向かうなら、一曲の流れで気持ちよく弾きたい」「途中で止まると演奏が途切れてなんだか気持ち悪い」と感じて、毎回イントロからラストまで通して弾いてしまう気持ちはとてもよく分かります。特に大好きなポップス曲や思い入れのあるメロディであればあるほど、曲全体を最初から通して奏でたくなるのは自然なことです。

しかし、毎日時間をかけて練習しているにもかかわらず、「なぜか毎回同じ場所で指が引っかかる」「曲の前半はスラスラ弾けるのに、後半になると途端にボロが出る」「いつまで経っても自信を持って1曲を弾ききれない」とお悩みなら、その原因は「通し練習のやりすぎ」にあるかもしれません。

ピアノの曲をすみずみまで滑らかに仕上げるためには、無意識に通して弾いてしまう癖を一度見直し、「部分練習」を日々のトレーニングに取り入れることが一番の近道です。この記事では、なぜ通し練習だけだと苦手な箇所が克服できないのか、その理由を解き明かしながら、一曲を効率よく完成に導く具体的な部分練習の手順について詳しく解説していきます。

通し練習だけでは苦手な場所が残りやすい理由

通し練習を繰り返していると、「練習した気」にはなりやすいものです。弾き終わったあとに一定の満足感が得られるため、しっかりトレーニングをした気持ちになります。しかし、上達という観点から見ると、通し練習にはいくつか大きな落とし穴が存在します。

最大の理由は、苦手な箇所を復習する密度(回数)が物理的に圧倒的に少なくなってしまうことです。

例えば、演奏時間が3分かかる曲があるとします。その曲の中に、指使いが難しくて毎回つまずいてしまう「2小節(時間にして約5秒)」の苦手箇所があるとしましょう。この曲を最初から最後まで通して弾く練習を15分間行った場合、3分の曲ですから通して弾ける回数はたったの5回です。つまり、15分間練習しても、苦手な2小節を弾いた回数は「わずか5回」にとどまります。

一方、その15分間のうち10分間を苦手な2小節だけに絞って集中的に練習(部分練習)した場合、5秒のフレーズですから、テンポを落として慎重に弾いたとしても30回〜50回近く反復して弾くことができます。どちらが早く苦手箇所を克服できるかは一目瞭然です。

また、曲の冒頭(イントロやAメロ)は練習を始めるたびに必ず弾くため、無意識のうちに練習回数が多くなり、どんどん上達していきます。しかし、曲の中盤から終盤にかかるにつれて集中力が途切れがちになり、つまずいたまま勢いで弾ききってしまう癖がついてしまいます。その結果、「前半だけはやたらと上手いが、後半になるとミスが連発する」という偏りが生まれてしまうのです。

 

補足解説:間違えた記憶を脳に上書きしないために

人の脳と手指は、「繰り返した動作」をそのまま記憶します。通し練習で「毎回つまずきながらも、無理やり弾き直して最後まで進む」という行動を繰り返すと、脳は「つまずく動き」や「一瞬立ち止まる癖」までセットで記憶してしまいます。間違いを癖にしないためには、正しく弾ける最小限の単位まで分解し、ミスをしない状態で反復することが重要なのです。

曲をいくつかの区間に分けて練習する効率的なステップ

苦手な場所を根本から解消し、曲全体を均一に美しく仕上げるためには、曲を小さな区間(ブロック)に細分化して練習する「部分練習」が欠かせません。具体的には以下のステップで進めていくのが最も効果的です。

まず最初のステップは、「自分がどこでつまずいているか」を客観的に特定することです。通して弾いている最中に、指がもつれたり、一瞬思考が止まったり、音が濁ったりする場所を探します。見つけたら、その前後1〜2小節だけに鉛筆で印をつけ、そこだけを練習範囲として切り出します。

次のステップでは、その切り出した1〜2小節だけを「絶対に間違えない超スローテンポ」で弾きます。このとき、音符だけでなく、指番号(どの指で弾くか)や音の長さが正しく保たれているかを細かく確認してください。焦って元のテンポに戻そうとせず、ゆっくり確実に弾ける状態を5〜10回連続で再現できるまで繰り返します。

そして非常に重要なのが、3つ目のステップである「のりしろ(前後とのつながり)を作る練習」です。苦手な1〜2小節単体で弾けるようになっても、前後のフレーズとつなげた瞬間に再び止まってしまうケースがよくあります。これを防ぐために、苦手箇所の「1拍前から弾き始める」「直後の1音(または1拍)まで弾いて止まる」というように、前後の境界線を少しまたぐ形で練習します。

練習方法 苦手箇所の試行回数(15分あたり) メリット・デメリット
通し練習のみ 約5回(3分曲の場合) 【利点】弾いた満足感がある
【欠点】つまずく癖が残りやすく、後半の精度が上がらない
部分練習(集中) 30〜50回以上 【利点】短時間で苦手箇所を克服できる
【欠点】地道な作業のため根気が必要

このように区間を区切ってピンポイントで攻略していくことで、曲全体のムラがなくなり、どこから聴かれても安定した演奏ができるようになっていきます。

補足解説:心理的な負荷を下げる「ブロック化(チャンキング)」

人間の脳は、一度に大量の情報を処理しようとするとフリーズを起こします。認知心理学では、情報を小さなまとまり(ブロック)に分類して処理することを「チャンキング」と呼びます。楽譜を一連の長い文章として捉えるのではなく、1〜2小節ごとの「小さなブロックの集まり」として脳に認識させることで、演奏時の脳の負担を劇的に減らすことができます。

最後に通して弾く時間を設けることで得られる効果と達成感

ここまで「部分練習の大切さ」をお伝えしてきましたが、だからといって「通し練習を一切してはいけない」というわけではありません。実は、部分練習と同じくらい重要なのが、練習の締めくくりに行う「最後の仕上げとしての通し演奏」です。

部分練習ばかりを延々と続けていると、どうしても単調な作業になりやすく、「音楽を演奏する楽しさ」や「曲のストーリー感」が薄れてしまうことがあります。だからこそ、日々の練習時間の最後には、必ず「最初から最後まで通して弾く時間」を設けるようにしましょう。

練習の最後に通して弾くことには、主に3つの大きなメリットがあります。

  • 部分練習で磨いたパーツが、曲全体の中にしっかり組み込まれているか確認できる
  • 曲全体のテンポ感や強弱の変化(盛り上がりや静まる部分)など、全体のバランスを捉えられる
  • 「今日も一曲を弾ききった!」という実感と高い達成感が得られ、練習の満足感が深まる

部分練習によってつまずいていた場所がスムーズに繋がるようになると、通し演奏をしたときの爽快感は以前とは比べものにならないほど大きくなります。途中で止まらずに音が流れる心地よさを実感できるため、「練習した成果が目に見えて出ている」という確信に繋がり、翌日以降の練習への意欲も高まります。

補足解説:練習の「8:2の黄金比率」を意識する

理想的な練習時間の配分は、全体の「8割」を部分練習(苦手箇所の分解・修復作業)にあて、残りの「2割」を通し演奏(全体の確認と表現力の調整)にあてることです。このメリハリをつけることで、短時間でも驚くほど質の高い練習が可能になります。

まとめ|部分練習を取り入れて一曲を完成させよう

ピアノの曲を最後まで完成させるためには、漠然と最初から最後まで弾く練習を繰り返すのではなく、いかに「苦手な場所をピンポイントで攻略できるか」がポイントになります。

今日からの練習では、ぜひ次のポイントを意識してみてください。

  • つまずく場所(1〜2小節)を見つけたら、曲から切り出して集中練習する
  • ゆっくり確実に弾ける速度で反復し、前後1拍の「のりしろ」を作ってつなげる
  • 練習の最後には必ず全体を通して弾き、成長を実感しながら達成感を味わう

地道に思える部分練習ですが、これを取り入れることで結果的に何倍も早く1曲を完成させることができます。引っかかりのなくなった滑らかな演奏を目指して、ぜひ試してみてください。

ポップス曲をカッコよく、効率よく弾きこなしたい方へ。大人から始めるピアノ教室「Hanaポップスピアノ」では、独学ではなかなか気づきにくい練習のアドバイスや、一人ひとりの苦手箇所に合わせた実践的なアドバイスを行っています。「一曲を最後まで通してきれいに弾けるようになりたい」「憧れのポップス曲をマスターしたい」という方は、ぜひお気軽に教室の案内をご覧ください。


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