「ポップスピアノ」と「ポピュラーピアノ」。

どちらも耳馴染みのある言葉ですが、その違いを説明しようとすると、意外にもすんなりとはいきません。この二つの言葉は、時代の流れ、世代ごとの価値観、そして音楽文化の影響を色濃く受けながら、微妙なニュアンスをまとってきたのです。

そこで今回は、この呼称の違いについて、歴史的背景や文化的な視点を交えながら詳しく探っていきます。


1. 呼称の発生と変遷

まず、「ポピュラーピアノ」という言葉が登場したのは比較的古い時代です。戦後の日本では、西洋音楽が急速に広まり、特にジャズやラテン音楽などが「ポピュラー音楽」として広まっていました。

1950〜70年代にかけて、ピアノを使ってこれらの音楽を演奏するスタイルが定着し、クラシックピアノとは異なる「ポピュラーピアノ」と呼ばれるジャンルが確立されていきます。

一方、「ポップスピアノ」という言葉は比較的新しく、主に1980年代以降に使われるようになりました。特にJ-POPが市民権を得て以降、「ポピュラー音楽」の中でも特に「ポップス」に焦点を当てたピアノ演奏を指す言葉として使われるようになります。

つまり、「ポピュラーピアノ」は広義の大衆音楽をカバーする概念であり、「ポップスピアノ」はその中の一部門として発展したと考えられます。


2. 世代による認識の違い

ポピュラーピアノという言葉を使う人の多くは、比較的年齢層が高めです。ピアノが「クラシックの楽器」として一般家庭に普及していた時代を経て、ポピュラー音楽をピアノで弾くことが特別な存在だった世代にとっては、「ポピュラーピアノ」という言葉がしっくりきたのでしょう。

しかし、1990年代以降の世代にとっては、「ポピュラー音楽=ポップス」という認識が強まっていきます。結果として、ポップスピアノという呼称が一般的になり、「ポピュラーピアノ」という言葉は少し時代遅れの響きを持つようになっていきました。

また、2000年代以降の音楽教育では、J-POPやアニメソングをピアノで弾くことが当たり前になり、その延長線上で「ポップスピアノ」という言葉が一般化したことも一因でしょう。


3. 文化的・音楽的な違い

ポピュラーピアノは、その名の通り「ポピュラー(大衆的)」な音楽を扱うジャンルです。ジャズ、ブルース、ボサノバ、ラテンなど、幅広いジャンルを含みます。コード奏法や即興演奏、リズムの多様性などが特徴です。

一方、ポップスピアノは、特に「ポップス」に特化したピアノ演奏スタイルを指します。シンプルなコード進行を基盤にしながら、キャッチーなメロディを際立たせる演奏が主流です。J-POP、K-POP、洋楽ポップスなどが主なレパートリーとなります。

また、ポップスピアノは歌との親和性が高く、弾き語りの伴奏としてもよく使われる点が特徴的です。


4. 出版社による呼称の変化

音楽出版社の視点でも、この呼称の変化は見て取れます。

1970〜80年代の楽譜では「ポピュラーピアノ入門」や「ポピュラーピアノ曲集」というタイトルが多く使われていました。これらの楽譜には、ジャズやラテン、映画音楽など、幅広いジャンルが含まれていたのが特徴です。

しかし、1990年代以降、特にJ-POPの人気が高まるにつれ、「ポップスピアノ曲集」「J-POPピアノ楽譜」という名称が増えていきました。特にJ-POPのアレンジ楽譜は、アーティスト名や楽曲タイトルを前面に押し出し、より親しみやすい形で売り出されるようになります。

現在では、楽譜出版社ごとに使い分けがあり、

  • 「ポピュラーピアノ」はジャズや映画音楽を含む広範なジャンル向け
  • 「ポップスピアノ」はJ-POPや洋楽ヒットソング向け

といった住み分けが見られます。


5. 現在の状況と今後の呼称の変化

現代では「ポップスピアノ」の方が馴染み深くなってきているものの、「ポピュラーピアノ」には広範なジャンルをカバーする力があります。

また、近年ではYouTubeやSNSの影響で、ピアノ演奏のスタイルも多様化しています。特に「ピアノカバー」「ストリートピアノ」などの新たなキーワードが登場し、従来の「ポップスピアノ」「ポピュラーピアノ」といった枠組みが再編されつつあります。

今後、音楽ジャンルの境界線がますます曖昧になる中で、「ポップスピアノ」はJ-POPなどの特定のスタイルを指す言葉として定着し、「ポピュラーピアノ」はより幅広いジャンルを包括する形で残っていく可能性が高いでしょう。

また、新たな潮流として「J-POPピアノ」「K-POPピアノ」「ボカロピアノ」など、より細分化された名称が登場するかもしれません。

結局のところ、言葉の変遷は時代とともに変わり続けるもの。あなたが今使う言葉も、10年後にはまた違ったニュアンスを持っているかもしれません。

音楽とともに、言葉の変化を楽しんでみるのも面白いのではないでしょうか?


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