スタジオジブリ作品をはじめ、映画音楽や現代音楽の分野で圧倒的な存在感を放つ久石譲。その楽曲はどれも個性的でありながら、彼自身の演奏によってさらに唯一無二の表現が生まれています。本コラムでは、久石譲の「自作自演」に焦点を当て、彼の演奏スタイルや音楽哲学について深掘りしていきます。

1. 久石譲のピアノ演奏の特徴

久石譲のピアノ演奏には、独特なリズムの揺らぎや、繊細かつ大胆なタッチが見られます。特に次の点が彼の演奏の特徴と言えるでしょう。

  • 絶妙なルバート:久石譲は機械的な正確さではなく、フレーズごとにわずかにテンポを変化させることで、語るような表現を生み出します。例えば、『ハウルの動く城』の「人生のメリーゴーランド」では、ワルツのリズムを基本にしながらも、微妙に伸縮するタイミングが曲の優雅さを引き立てています。
  • 独特なペダルワーク:久石のピアノ演奏では、持続音を活かすためのペダルワークが非常に巧妙です。特に、残響をコントロールしながらフレーズ間の流れを作る技術は、「あの夏へ」(『千と千尋の神隠し』)などで顕著に見られます。
  • 音の立ち上がりと余韻:彼の演奏では、単なるノートの再生ではなく、音のアタックとリリースのコントロールが極めて重要視されています。特に、『風立ちぬ』の「旅路」では、軽やかで柔らかいアタックが曲全体の幻想的な雰囲気を支えています。

2. 久石譲のオーケストラ指揮とピアノ

久石譲は自身のコンサートでは、ピアノ演奏のみならず指揮者としても登場し、自らの楽曲を新たな解釈で表現します。その際に見られる特徴的なアプローチを以下に挙げます。

  • テンポの揺らぎとダイナミクスの制御:オーケストラとの共演時、久石は自身のピアノ演奏と同じく、細やかなテンポの変化を加えます。特に「One Summer’s Day」(『千と千尋の神隠し』)では、オーケストラの響きを最大限に活かしつつ、ピアノの旋律を浮かび上がらせる絶妙なバランスが見られます。
  • 演奏と指揮の一体化:ピアノとオーケストラの両方をコントロールする際、久石はまるで室内楽のように、アンサンブルの一部として演奏します。この手法は「Summer」(『菊次郎の夏』)のライブ演奏において顕著で、ピアノがオーケストラと緻密に絡み合う様子が印象的です。

3. 久石譲の即興的アプローチ

久石譲の演奏では、即興的な要素も非常に重要です。彼のライブでは、楽譜にはないフレーズや和声の変化が頻繁に加えられ、演奏ごとに新たな解釈が生まれます。

  • コード進行のアレンジ:例えば、「世界の約束」(『ハウルの動く城』)では、ライブごとに異なるコードボイシングが加えられ、時にはジャズ的な解釈すら見せることがあります。
  • 即興的なイントロや間奏:久石の演奏では、楽曲のテーマが始まる前に、即興的な前奏が加えられることがあります。これは『魔女の宅急便』の「海の見える街」において特に顕著であり、演奏のたびに異なる雰囲気を生み出します。

4. 久石譲の音楽哲学

久石譲の演奏スタイルには、彼の音楽哲学が色濃く反映されています。彼は自身の音楽を「シンプルであることの奥深さ」と捉え、装飾的な要素を抑えながらも、表現の豊かさを追求します。

  • 音楽は語るもの:久石は「音楽は語るものである」と語っており、演奏にもこの思想が色濃く表れています。単なる旋律の再現ではなく、フレーズごとに意図を込めた解釈がなされます。
  • 観客との対話:ライブ演奏では、観客との間に呼吸を生み出しながら演奏することを重視しています。この点は、ソロピアノ公演での「HANA-BI」などに見られ、演奏の余白を活かした独特の間合いが特徴的です。

まとめ

久石譲の自作自演は、単なる「作曲者が自ら演奏する」ものではなく、その場で新たな解釈を生み出し、作品を進化させる行為とも言えます。彼の演奏を深く聴き込むことで、単なる旋律の美しさを超えた、音楽の持つ哲学や表現の奥深さを感じ取ることができるでしょう。

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