メロトロンという鍵盤楽器
あれは忘れもしない、深夜2時。
仕事で煮詰まった脳みそを冷やすように、ぼんやりYouTubeで音楽を漁っていたときのことだ。
ふと流れてきたのは、ビートルズの「Strawberry Fields Forever」。
もう何十回も聴いた曲だったはずなのに、その日はなぜか違った。
イントロのあの、ふわふわと浮遊するような音――まるで夢のなかで誰かが遠くから呼んでいるような、だけど温かくて、どこか不穏で、あまりに人間くさくて……。
「そういえば、これって何の音?」
そこから、私のメロトロン沼が始まった。
目次
- メロトロンとは、どんな楽器?
- 電子楽器でも生音でもない、第三の音
- メロトロンが使われている有名曲
- 使うのは面倒。でも、だからいい
- メロトロンに「惚れる」とは、こういうこと
- 今こそ、あなたも一度聴いてみてほしい
■ メロトロンとは、どんな楽器?
メロトロン(Mellotron)は、1960年代にイギリスで開発された鍵盤楽器の一種。
でも、普通のピアノやオルガンとはまったく違う。
鍵盤を押すと、その下にある磁気テープが再生されて音が鳴る、という超アナログ構造の楽器なのだ。
簡単に言えば、「鍵盤で鳴らすテープレコーダー」とでも言おうか。
しかもそのテープには、あらかじめ録音されたフルートやストリングス、合唱の音などが詰まっている。
押せば録音された“誰かの演奏”が鳴る。しかも、ちょっと揺れたり、くすんだり、ズレたりする。
それがまた、えも言われぬ味わいを生むのだ。
■ 電子楽器でも生音でもない、第三の音
現代のシンセサイザーとは違う。
完璧ではない。むしろ不完全な音。
でもその“ちょっとした不完全さ”が、たまらなく愛おしいのだ。
まるで、誰かが遠くで生演奏してるのをこっそり聴いてるような、そんな音。
私は初め、これを「録音の劣化」かと思っていた。
でも調べるほどに、これが“味”として世界中のミュージシャンに愛されていることが分かってきた。
■ メロトロンが使われている有名曲
思いがけず、身近なあの名曲にもメロトロンが使われていたと知って驚く人は多い。
🎵 The Beatles「Strawberry Fields Forever」
まさに私がメロトロンに恋したきっかけ。
イントロの“フルートのような音”は、まさしくメロトロン。
ビートルズが取り入れたことで、この楽器は一気に“時代の顔”になった。
🎵 King Crimson「In The Court Of Crimson King」
重厚なストリングスサウンドは、実はメロトロンの弦音。
人間くさくて、不気味で、美しい。
プログレッシブ・ロックの“魂の叫び”に、この不完全な楽器がぴったりハマるとは…。
🎵 aiko「カブトムシ」
実は、かの有名なaikoのヒット曲でもメロトロンが使われている。
楽曲のエンディングで、等間隔で鳴っているやわらかい音が、メロトロンのフルートの音色を使ったフレーズだ。
■ 使うのは面倒。でも、だからいい
メロトロンは正直、実用的な楽器ではない。
・テープの入れ替えが必要
・テープが伸びたり切れたりする
・音程が不安定
・重量がめちゃくちゃ重い(100kg超!)
こんなの、普通だったら使わない。
でも、それでも使いたくなる音なのだ。
現代ならDAW(音楽制作ソフト)で似たような音を再現できるけれど、
メロトロンの本物の“ブレ”は機械では完全に再現できない。
アナログの弱点が、唯一無二の“色気”になっている。
■ メロトロンに「惚れる」とは、こういうこと
この楽器は、人に媚びない。完璧じゃない。でも、妙に色っぽい。
たとえるなら、ちょっと癖のある俳優みたいな感じ。
万人受けはしないけど、好きになったら抜け出せない中毒性がある。
私はメロトロンを知ってから、聴く音楽のジャンルまで変わった。
むしろ「メロトロンが入っているかどうか」が、曲選びの基準になってきたくらいだ。
……それは過言かもしれないが。
ただ、レコード屋では「Mellotron」というクレジットを探すクセがついたし、
DTMで打ち込む時も、わざと音を不安定に加工するようになった。
“不安定さ”を楽しむ方法を教えてくれたのは、メロトロンだった。
■ 今こそ、あなたも一度聴いてみてほしい
もしこの記事をここまで読んでくれたのなら、
ぜひ一度、「Strawberry Fields Forever」のイントロをヘッドホンで聴いてみてほしい。
願わくば、King Crimsonの「In The Court Of Crimson King」を再生してみてほしい。
もしかしたら、あなたの感性のどこかが、ピクリと反応するかもしれない。
その“ちょっとした引っかかり”が、メロトロンの魔法なのだ。


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