2026.7.3
目次
なぜ練習してもミスが減らないのか?
ピアノをどれだけ長時間練習しても、なぜかいつも同じ場所でつっかえてしまう、あるいは昨日直したはずのミスが今日になるとまた復活している……そんな悩みを抱えている方は非常に多いものです。「練習量が足りないのかな」と思って、さらに何度も同じ曲を弾き込んでみるものの、一向に状況が改善されない。実は、ミスが減らない原因の多くは練習の「量」ではなく、無意識のうちにやってしまっている練習の「クセ」にあります。

補足解説
人間の脳は、良くも悪くも「繰り返された動作」をそのまま記憶する仕組みを持っています。ピアノを弾くという行為は、目から入った楽譜の情報を脳で処理し、それを指の運動指令に変換して鍵盤を叩くという、非常に複雑なプロセスの連続です。もし、練習の段階でミスを含んだ演奏を何度も繰り返していると、脳はその「ミスをした状態の指の動き」を正しい手順として学習し、強力に記憶に焼き付けてしまいます。つまり、間違ったまま何度も通して弾く練習は、皮肉なことに「上手にミスをするための練習」になってしまっているのです。ミスを根本から減らすためには、がむしゃらに鍵盤に向かう時間を増やすのではなく、今自分がどのような状態に陥っているのか、その原因となっている日頃の練習の進め方、つまり弾くときの手順やクセを一度冷静に疑ってみる必要があります。
同じミスを何となく繰り返している可能性がある
楽譜を最初から最後まで通して弾くとき、途中で音を間違えたりつっかえたりしても、そのままスルーして最後まで弾ききってしまう。あるいは、間違えた箇所だけを一瞬弾き直して、すぐに先へ進んでしまう。このような「何となくの繰り返し」をしてしまっている場合、どれだけ時間をかけてもミスが減ることはありません。

補足解説
ミスをうやむやにしたまま先へ進むクセがついていると、脳はミスをエラーとして認識できなくなります。つっかえた時に「もう一回弾けば次はできるだろう」と、特に何も考えずに同じ場所を弾き直すのも危険なクセです。その弾き直し自体が「一回目は失敗して、二回目に成功する」という一連のセットとして脳に記憶されてしまうからです。本番や通し演奏の際にも、決まってその場所にくると一回目はつっかえてしまう、という現象が起きるのはこのためです。ミスを偶然の不運として片付けるのではなく、一度でも間違えたらそこでピタッと指を止め、その一回を重く受け止める姿勢が必要です。何となく繰り返す練習を卒業し、一回一回の動作に対して脳に正しい記憶を上書きしていくような丁寧なアプローチが、ミスを減らすための大切な一歩となります。
速いテンポで練習しすぎている場合がある
まだ指が十分に動きを覚えていない段階、あるいは特定のフレーズが満足に弾けていない状態であるにもかかわらず、曲本来のテンポで最初から弾こうとしてしまう。これも、ミスがどうしても減らなくなってしまう大きな原因の一つです。速いテンポで弾くと、勢いで弾けているような錯覚に陥りやすいですが、実際には指のコントロールが追いついていません。
補足解説
曲を早く完成させたいという気持ちが先走ると、どうしても最初からインテンポ(指定された速さ)で弾きたくなるものです。しかし、人間の脳や指の筋肉が、新しい複雑な動きを正確に覚えるためには、ある程度の時間が必要です。速いテンポのまま何度も弾き続ける練習は、脳の指令が間に合わず、指先が勝手に暴れて鍵盤を叩いているような状態を生み出します。これでは、ミスの原因となっている指のフォームの乱れや、余計な力みに気づくことができません。上手な人ほど、苦手な部分を修正するときは、極端にテンポを落として練習します。自分の指の動きをスローモーションで確認できるくらいの遅い速さで弾くことで、初めて「ここで手首の準備が遅れているんだな」という肉体的な問題点を発見できます。ゆっくり弾く練習は、正確な動きを最短で定着させるための、実は最も確実な近道なのです。
ミスの原因を言葉にしてから練習する
間違えてしまった箇所を直そうとするとき、ただ「次は間違えないように気をつけよう」と精神論や気合いだけで弾き直していませんか? ピアノのミスには、必ず何かしらの物理的・具体的な理由が存在します。ミスを減らすためには、弾き始める前に「なぜ間違えたのか」という原因を、頭の中でしっかりと言葉の形にして理解することが不可欠です。

補足解説
「気をつけよう」という曖昧な意識だけで弾き直しても、次の瞬間にはまた同じミスを繰り返すか、別の場所で新たなミスが発生するだけです。そうではなく、ミスが起きたら一度鍵盤から手を離し、原因を客観的に分析してみてください。例えば、「前の小節から移動してくるときに、小指が届く前に手首が下がってしまっていた」「黒鍵を弾くのに指を伸ばしたままアプローチしたから滑ってしまった」というように、原因を具体的に言語化するのです。理由が言葉になれば、それに対する対策も「手首を少し高く保ったまま移動する」「指の第一関節をしっかり立てて上から捉える」といった、具体的で実行可能なアクションへと変わります。このように、ミスの原因と対策を頭の中で一度言葉に落とし込んでから指を動かすようにすると、練習の集中力が飛躍的に高まります。頭を使ったクリエイティブな問題解決の時間を心がけてみてください。
まとめ|正しい練習のクセを身につけよう
ピアノの練習において、ミスが減らないのは決してあなたの才能が足りないからでも、指が短いからでもありません。ただ、日々の練習の中で無意識に行ってしまっているいくつかの「非効率なクセ」が、上達の足を引っ張っているだけなのです。
補足解説
今回ご紹介した、同じミスを漫然と繰り返さないこと、徹底的にテンポを落として自分の動きを観察すること、あるいはミスの理由を具体的に言葉にしてから次の弾き直しに移ること。これらのポイントは、どれも特別な技術が必要なものではなく、今日からの練習で今すぐにでも意識できることばかりです。ピアノに向き合うとき、私たちはどうしても「早くスラスラ弾けるようになりたい」という結果ばかりを追い求めてしまいがちですが、本当に大切なのは、その結果に至るまでのプロセスです。間違ったクセを一つずつ手放し、脳に正しい記憶を届けるための優しい練習方法を身につけることができれば、これまでどうしても突破できなかった苦手なフレーズも、驚くほど滑らかに響くようになります。ぜひ、これまでの自分の練習風景を少しだけ振り返ってみてください。そして、ピアノを弾く時間がもっと楽しく、もっと達成感に満ちたものになるように、新しい練習のクセを少しずつ育てていってみてください。
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