スタジオジブリの音楽といえば、誰もが耳にしたことのある名曲が多く、印象的なメロディが特徴です。しかし、実はジブリ音楽は一般的なポップスとは異なる要素を多く含んでいます。その違いを、久石譲の作曲スタイルや映画音楽としての特徴に注目しながら解説していきます。
1. 久石譲の演奏と「テンポの揺らぎ」
一般的なポップスでは、テンポは一定に保たれ、リズムの揺れはほとんどありません。これは、ポップスが「歌いやすさ」「踊りやすさ」を重視しているためです。しかし、久石譲の演奏には「テンポの揺らぎ」が随所に見られます。
- 指揮者のようなアプローチ: 久石譲は、自身の演奏をまるで指揮者のようにコントロールし、フレーズごとに微妙なテンポ変化をつけます。
- 感情の込め方が違う: クラシック音楽の影響を受けた彼のスタイルでは、感情表現のためにテンポを柔軟に変化させることが多いです。
- 例:「風のとおり道」(『となりのトトロ』): ピアノのアルペジオが時に加速し、時にゆっくりと流れることで、幻想的な雰囲気を作り出しています。
このようなテンポの揺らぎは、ポップスのように「ノリの良さ」ではなく、「物語性」や「情緒的な余韻」を優先するジブリ音楽の特徴と言えます。
2. 映画音楽とポップスの根本的な違い
ポップスと映画音楽では、そもそもの役割が違います。
ポップスの目的
- メロディを聴かせることが最優先
- シンプルなコード進行とリズムで親しみやすさを追求
- 一定の構成(Aメロ→Bメロ→サビ)が明確
映画音楽の目的(久石譲の音楽の特徴)
- 映像を引き立てる: 音楽単体で完結せず、映像と融合することで完成する
- 感情を補完する: キャラクターの心情や場面の雰囲気を音で伝える
- ダイナミクスの幅が広い: 静寂から壮大なオーケストレーションまで、場面に応じた表現が求められる
例えば『千と千尋の神隠し』の「ふたたび」は、旋律がシンプルながらも、オーケストラの編成や和音の響きが場面ごとに変化し、物語の移り変わりを音楽で表現しています。
3. 久石譲の音楽スタイルの変化
久石譲の初期のジブリ音楽は、比較的わかりやすいメロディとポップス寄りのアレンジが特徴でした。しかし、近年はよりシンプルでミニマルな音作りへと移行しています。
初期(1980〜90年代):メロディ重視
- 「君をのせて」(『天空の城ラピュタ』)
- 「となりのトトロ」(『となりのトトロ』)
- 「人生のメリーゴーランド」(『ハウルの動く城』)
この時期の楽曲は、キャッチーで親しみやすいメロディが特徴で、ポップス的な要素も色濃く残っていました。
近年(2000年代以降):シンプルでミニマルな音作りへ
- 『風立ちぬ』(2013年)
- 『かぐや姫の物語』(2013年)
- 『君たちはどう生きるか』(2023年)
この時期の久石譲の音楽は、メロディよりも音の「間」や「響き」を重視し、和音の響きをシンプルにする傾向があります。たとえば、『風立ちぬ』の「旅路」では、ピアノのアルペジオと単音のメロディだけで情感を表現しています。
彼の音楽は、より抽象的で詩的な表現へと変化し、聴き手の想像力を刺激するような作りになっています
まとめ:ジブリ音楽は「空間」を生かした表現が鍵
スタジオジブリの音楽が一般的なポップスと異なるのは、
- 久石譲のテンポの揺らぎによる感情表現の豊かさ
- 映画音楽としての役割がポップスとは異なるため、メロディだけでなく、雰囲気や感情を重視している
- シンプルでミニマルな音作りへと進化している
ジブリの音楽を聴くときは、単にメロディを追うのではなく、「どのような場面で流れているのか」「どんな感情を引き出しているのか」を意識すると、より深く楽しめるでしょう。
久石譲の音楽は、広義の意味でポピュラー音楽と言えます。しかし一般的なポップスとは違ったアプローチで、映画の世界を豊かに彩る特別な存在なのです。