2026.7.7

ピアノ曲の練習で陥りがちな「弾けたつもり」の落とし穴

ピアノの練習を重ねて、ようやく楽譜の最初から最後までつっかえずに弾けるようになったとき、誰しもが大きな達成感を抱くはずです。「これでこの曲は完成だ!」と嬉しくなり、次の新しい曲へと進みたくなる気持ちもよく分かります。しかし、自宅のピアノで「とりあえず止まらずに弾ききれた」という状態は、実は音楽としての本当の完成ではなく、いわばスタートラインに立てたという段階に過ぎません。多くの人が、止まらずに弾けるようになった段階で満足してしまい、それ以上の練習をやめてしまいます。その結果、人前で弾いたときに「なんか一本調子でつまらない演奏だな」と思われてしまったり、自分でも「指は動いているのに、憧れのプロの演奏と比べて何かが決定的にダサい」とモヤモヤを抱えることになってしまうのです。

弾けるつもり

補足解説

なぜ止まらずに弾けるだけでは、聴き手の心に響く演奏にならないのでしょうか。それは、私たちの脳が「音符を間違えずに処理すること」に全神経を使い果たしてしまっているからです。楽譜の音を追って、正しい指で正しい鍵盤をタイミングよく叩く。これだけでも初心者やアマチュアにとっては非常に重いタスクです。この段階の演奏は、言ってみれば楽譜のデータ化に過ぎず、まだ感情や表現が入り込む余地がありません。

本人は気持ちを込めて弾いているつもりでも、現実に出ている音は、ただ機械的に音符を並べただけになりがちです。ここからさらに一歩進んで、曲を仕上げるという作業を行うためには、脳の処理能力に余裕を持たせる必要があります。指が勝手に動くくらいまで体に動きを馴染ませた上で、「どのような音色で、どんなニュアンスでその音を響かせるか」という、音楽本来の楽しさ、つまり表現のクオリティを磨いていく段階が必要になります。この「弾けたつもり」の壁を突破することこそが、あなたのピアノの演奏を、ただの練習の成果から、聴く人の心を震わせる本当の「音楽」へと進化させるためのターニングポイントになるのです。

止まらず弾けることと、仕上がっていることは違う

「止まらず弾けること」と、その曲が「仕上がっていること」の間には、明確な違いがあります。前者は単に「途中で演奏が中断しない技術がある」という状態を指し、後者は「その曲が持っている世界観や魅力を、自分の音で十分に表現できている」という状態を意味します。この違いを意識できているかどうかが、ピアノが本当に上手な人と、そうでない人の決定的な差になります。

補足解説

つっかえずに弾けるようになった演奏をじっくり聴いてみると、多くの場合、いくつかの重大な問題点が隠されています。例えば、苦手なフレーズに差し掛かったときに、止まりはしないものの全体的なテンポが微妙に遅くなってしまったり、逆に簡単な場所で無意識に走って(速くなって)しまったりするケースです。また、和音を弾いたときにすべての指の音量がバラバラで、一番大切なメロディの音が伴奏にかき消されていることもよくあります。

仕上がっている演奏というのは、こうした技術的な不安定さが完全にクリアされ、聴き手が何のストレスもなく音楽の流れに身を任せられる状態を指します。どれだけ指が速く動いても、リズムがガタガタだったり、一本調子な音の大きさで叩き続けられたりする演奏は、聴いていて疲れてしまうものです。止まらずに弾けるようになったら、まずは自分の演奏を疑ってみてください。「本当に一定のテンポが守られているか」「音の粒は揃っているか」を1小節ずつ点検していく、そんな地道で丁寧なブラッシュアップのプロセスを経て初めて、その曲は本当の意味で仕上がったと言えるクオリティへと育っていくのです。

音の強弱・テンポ・表情を確認する

曲の完成度を本当に引き上げるために見直したいのが、音の強弱(ダイナミクス)、テンポの安定性、そして曲が持つ「表情」の3点です。楽譜に書かれている「フォルテ(強く)」や「ピアノ(弱く)」という記号をただ文字通りになぞるだけでなく、その強弱がどのような感情を表しているのかを深く考え、実際の音に反映させていく作業が必要です。

補足解説

とくにポップスピアノにおいては、この表情の付け方が曲の完成度を大きく左右します。ポップスは元々「歌」がある曲がほとんどですから、ピアノで弾くときも、まるで自分がその曲を歌っているかのような呼吸感が必要になります。例えば、メロディのフレーズの始まりでは優しく息を吸うように音を出し、フレーズの終わりでは音がブツッと切れないように余韻を大切に響かせる、といった工夫です。

強弱についても、単に「右手を大きく、左手を小さく」という単純なバランスだけでなく、「サビに向かって少しずつエネルギーを溜めていくようにクレッシェンド(だんだん強く)していく」といった、時間的な変化のグラデーションを意識することが重要です。また、テンポについても、メトロノームのように完全に一定なだけでなく、フレーズの節目でほんのわずかにテンポを揺らす(ルバートする)ことで、機械的な演奏から人間らしい温かみのある演奏へと変化します。これらの強弱やテンポ、表情のコントロールは、指が楽譜通りに動くようになった後だからこそ取り組める、最高にクリエイティブで楽しい時間です。楽譜の裏側に隠された音楽のメッセージを読み解き、一音一音に魂を吹き込んでいきましょう。

録音や人前での演奏を通して完成度を見直す

自分の部屋の練習で「完璧に弾けた」と思っても、いざ他人の前で弾いたり、スマートフォンで録音して聴き返したりすると、想像以上にボロボロな演奏になってしまう。これはピアノを弾く人なら誰もが通る道です。曲を本当の意味で完成させるためには、録音による客観的な評価と、人前で弾くという程よい緊張感のなかで完成度をテストするステップが欠かせません。

人前でのピアノ演奏

補足解説

自分の演奏をスマートフォンなどで録音して聴き返すことは、少し耳が痛い現実と向き合うことになりますが、上達のためにはこれ以上ないほど強力な方法です。弾いている最中には、自分の脳内補正のせいで気づけなかったリズムのヨレや、思ったほど付いていない強弱のメリハリが、録音の音源を聴くことで、冷酷なまでにクリアに浮かび上がってきます。「自分ではしっとり弾いていたつもりなのに、録音を聴いたらすごく雑で急ぎ足だった」という気づきを得ることで、初めて本当に直すべき課題が明確になります。

また、友人や家族など、誰でもいいので「誰かに聴いてもらう」という機会を作ることも非常に大切です。人間は誰かに見られていると感じるだけで、体や心に独特の緊張感が生まれます。その緊張感のなかで弾くと、普段は何気なく弾けていたはずのコードチェンジで指が迷ったり、急に頭が真っ白になったりします。人前での演奏を通してあぶり出された「弾けなくなった場所」こそが、実はまだあなたの体の中に100%定着していない、本当の弱点なのです。録音と人前での演奏。この二つのフィルターを通して自分の演奏を何度も揉み直すことで、どんな環境でもブレずに、自分の魅力を最大限に発揮できる本物の演奏力が身についていきます。

まとめ|「仕上がり」を追求する時間が、ピアノを一番育てる

ピアノの練習において、楽譜の音を間違えずに通せるようになるまでの期間が「前半戦」だとすれば、そこから音のニュアンスを磨き、曲を仕上げていく期間は「後半戦」と言えます。そして、ピアノの演奏が本当に面白くなり、自分の個性が輝き始めるのは、間違いなくこの後半戦の時間です。

補足解説

曲の最初から最後まで止まらずに弾けるようになった段階で練習をやめてしまうのは、せっかく美味しい料理の材料をすべて切り終えたのに、火をつけずにそのまま食べるようなものです。非常に実にもったいないことです。そこから弱火でじっくり煮込んだり、スパイスを足したりするような仕上げの作業、つまり音の強弱のバランスをミリ単位で調整したり、フレーズの歌わせ方を試行錯誤したりする時間の中にこそ、ピアノという楽器を演奏する本当の醍醐味があります。

「弾けたつもり」の先にある、もう一つの高い山を登るのには、確かに少しの根気と時間がかかるかもしれません。しかし、自分の指先から生み出される音が、昨日よりも明らかに美しく、深く響くようになった瞬間を一度でも体感すると、ピアノを弾く喜びはそれまでの何倍にも膨れ上がります。他人の上達スピードと焦って比める必要はまったくありません。あなたが選んだ大好きなその曲を、ただの指の運動で終わらせないために。今日からもう一度、弾き慣れたその曲の蓋を開けて、一音一音の響きを優しく、そしてじっくりと耳で確かめながら、あなただけの本当の完成を目指して付き合ってみてください。

ポップス曲を自分のペースで本当に美しく仕上げてみませんか?
Hanaポップスピアノでは、ただ楽譜通りに弾くだけでなく、聴く人の心に響く強弱や表現力を身につけるための大人向けオンラインレッスンを提供しています。録音の上手な活用法から、人前で緊張せずに魅力を伝えるコツまで、一人ひとりの目標に合わせて丁寧にサポートします。ピアノをもっと深く、楽しく表現したい方は、ぜひお気軽にご覧ください。

Hanaポップスピアノを詳しく見る


体験レッスンの申し込みボタン
体験レッスン申し込みの電話番号
無料体験レッスン