ポップスピアノ愛好家のみなさま、突然クラシックの話題で恐縮ですが、
ブルクミュラーの《アラベスク》を知っていますか?
お願いですから「知らん」と即答せず、あと少しだけスクロールしてみてください。
ブルクミュラーはクラシックの作曲家ですが、クラシックらしい堅苦しい練習曲とはちょっと毛色が違います。むしろポップスが好きな方にも響く、『音楽的で楽しい』練習曲を書いた人。中でもこの《アラベスク》は、多くのピアノ初心者にとって、初めて出会う“楽しい難曲”かもしれません。
一見すると「かわいい曲」、でも油断は禁物
ブルクミュラーの《アラベスク》を最初に聴くと、かわいらしい右手の旋律がコロコロと転がります。
「ああ、こういう癒し系の曲ね」と思ったそこのあなた、危険です。
この曲は2/4拍子で書かれており、テンポは「アレグロ・スケルツァンド(Allegro scherzando)」。これは直訳すると「速く、しかもおどけて弾け」という意味。ちょっとした軽快さを要求しています。かわいい顔して「速く軽く」とか、実は意外に注文が厳しいタイプなんです。
さらに曲の中盤(B部分)で突如として現れる、左手が主役になる16分音符のパッセージ。ここがまた厄介で、油断した右手が急に居場所を失い、慌てて左手に「えっ、僕どうすればいいの?」と丸投げする瞬間が頻発します。
アラベスクの「表現記号」に注目!
ポップスピアノでは、楽譜に書かれた強弱や表情記号が掛かれてない楽譜が多いです。テンポのキープを最優先にして演奏する人も多いでしょう。しかし、《アラベスク》においてはそうはいきません。むしろ表現記号が非常に豊富で、それをどう弾き分けるかがこの曲の大きなポイント。
楽譜には、「leggiero(レジェーロ)」という『軽やかに』という指示が頻繁に登場します。「軽やか」なんて言葉、普段の生活ではあまり使いませんが、ここでは「鍵盤に触れる時間を最小限に」という意味に近いでしょう。鍵盤の上をコロコロと舞うような軽いタッチが求められます。
さらには、「crescendo(クレッシェンド)」(=音量を増やす)、「diminuendo(ディミヌエンド)」(=音量を減らす)も頻繁に指示されています。これらを細かく守ることで、曲全体が生き生きと動き出します。まるで無表情だったキャラクターが、突然表情豊かに話し出すような驚きがあるのです。
つまり、《アラベスク》は「音の強弱や表情に注意を払うと、曲の魅力が何倍にも膨らむ」タイプの楽曲です。ポップスを中心に弾くピアノ学習者にとっては、新鮮で面白い楽曲になるかもしれません。
ポップスピアノ愛好家こそ感じ取れる「リズムの妙」
ポップスピアノを弾くみなさんが得意なのは、リズム感やグルーヴの表現ではないでしょうか?
《アラベスク》もまさにそのタイプです。
正確に16分音符を刻むだけでなく、「音を跳ねさせる感覚」がとても大切。つまり、ただ速く弾くだけでは機械的で退屈に。ほんの少しだけ16分音符を正確なリズムよりも食い気味に演奏したり、アクセントの位置を変えたりすると、急に音がキラキラ輝きだします。
こう考えると、《アラベスク》は、クラシックの皮を被った「リズム遊び曲」なのかもしれません。クラシックも踊れる曲、魅力のある曲が多いので、食わず嫌いせずに挑戦してみても良いかと思います。
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