2026.7.8

ピアノを練習したくないと感じる自分に自己嫌悪していませんか?

ピアノを習い始めたり、憧れのポップス曲を自分で弾けるようになりたいと思って練習をスタートした当初は、毎日楽器に向かうのが楽しみで仕方がなかったという方がほとんどだと思います。仕事が忙しくても、少し眠くても、「早くあのメロディを両手で響かせてみたい」という純粋なワクワク感が背中を押してくれて、自然と鍵盤の蓋を開けていたはずです。しかし、数週間から数ヶ月が経過し、最初の熱狂が少し落ち着いてくると、ある日突然「今日はなんだかピアノに触りたくないな」「練習するのが面倒くさいな」と感じる瞬間がやってきます。疲れているからと自分に言い訳をしてその日をやり過ごしたものの、心の中では「あんなにやる気があったのに、もう冷めてしまったんだろうか」「自分には継続する才能がないのかもしれない」と、どんよりとした罪悪感や自己嫌悪を抱えてしまう人は少なくありません。

やる気が出ない様子

補足解説

まず最初にお伝えしたいのは、ピアノの前に座りたくないと思う日があるからといって、あなたのピアノに対する情熱が嘘だったわけでも、あなたが怠け者なわけでも決してないということです。大人のピアノ練習は、子どもの頃の習い事とは異なり、日々の仕事や家事、人間関係といった無数の「日常のタスク」の隙間を縫って行われています。それだけで、私たちの心や体は日々、目に見えない消耗を重ねているのです。

にもかかわらず、真面目な人ほど「毎日必ず30分は練習しなければならない」「一度決めたルールは守るべきだ」と、自分自身に厳しいノルマを課してしまいがちです。その結果、最初は楽しかったはずのピアノが、いつの間にか「こなさなければいけない義務」に変質してしまいます。義務感でいっぱいのものに対して、脳が拒絶反応を起こしてやる気を失ってしまうのは、人間の心の防衛本能として至極真っ当な反応なのです。大切なのは、練習したくないと感じる自分の今の状態を否定せず、「あ、今はちょっとエネルギーが減っている時期なんだな」と冷静に受け止めることです。そして、がむしゃらに頑張る以外の「ピアノとの優しい付き合い方」をいくつか知っておくことが、結果として挫折を防ぎ、何年も楽しく音楽を続けていくための土台になります。

練習したくない日があるのは自然なこと

モチベーションというのは、毎日一定の高さで保たれるものではなく、天候や体調、日々のストレスによって常に激しく上下する生き物のようなものです。常に100%のやる気でピアノに向かい続けられる人など、プロのピアニストであっても存在しません。練習したくない日があるのは、人間としてごく自然なバイオリズムの現れなのです。

補足解説

人間の脳は、新しいことを学ぶときや、難しい動作を身につけようとするときに、想像以上の大量のエネルギーを消費しています。特にピアノは、左右で違う動きをしながら楽譜を読み、音を聴き、ペダルを踏むという究極のマルチタスクです。昨日まで必死に練習を積み重ねてきたのであれば、脳の神経ネットワークはフル活動して少しお疲れの状態になっています。筋肉が激しい運動の後に筋肉痛を起こすのと同じように、脳も「これ以上は一度休ませて、情報を整理させてほしい」というサインを出しているのです。これが、私たちが感じる「今日は弾きたくない」という気分の正体であることが多々あります。

また、ポップスピアノの練習を進めていると、最初のうちはコードを覚えるだけで楽しかったのが、徐々にテンポが上がらなかったり、リズムが上手く刻めなかったりして、成長が停滞する「プラトー(高原現象)」と呼ばれる時期が必ず訪れます。一生懸命やっているのに変化が実感できないと、脳は報酬を得られないと感じてやる気をストップさせてしまいます。つまり、あなたが今日「練習したくない」と思っているのは、あなたがサボっているからではなく、これまでの練習によって脳がしっかりと働き、次のステップへ進化するための準備期間に入った証拠でもあるのです。そう考えると、やる気が出ない日があることも、少し愛おしい成長のプロセスだと思えてきませんか。

1曲だけ聴く、楽譜だけ見るなど軽い関わり方をする

ピアノの練習は、「椅子に座って鍵盤を叩くこと」だけがすべてではありません。楽器に直接触れる気力が湧かない日こそ、音楽を聴いたり、楽譜を眺めたりするような、ハードルの極めて低い「軽い関わり方」に切り替えてみましょう。これだけでも、立派な練習の一部であり、モチベーションの糸を繋ぎ止めることができます。

楽譜を見るだけでも練習になる

補足解説

どうしても鍵盤に向かうのが重苦しいときは、無理をして指を動かす必要はありません。その代わりに、今自分が練習しているポップス曲の原曲や、憧れのピアニストがカバーしている音源を、ソファに寝転びながらスマートフォンのイヤホンで1曲だけじっくりと聴いてみてください。ただ漫然と流すのではなく、「あ、ここはベースの音がこんな風に動いているんだな」とか「このサビの前の一瞬のタメが格好いいな」と、耳で音楽を観察するのです。自分の耳を育てることは、指を動かすのと同じくらい、あるいはそれ以上に演奏のクオリティを高めるために価値のある時間です。

あるいは、ピアノの前に座らず、楽譜をペラペラとめくって眺めるだけでも構いません。実際に音を出さなくても、楽譜を目で追いながら頭の中でメロディを思い浮かべるだけで、脳内の運動を司る領域が刺激され、弾いているときと似たような学習効果が得られることが認知科学の実験でも明らかになっています。「今日は楽譜のここからここまでのコード進行を目で確認するだけ」「YouTubeで他人の演奏動画を1本だけ観て終わりにする」というように、極限までハードルを下げてみてください。そうして音楽との細い接点を保っているうちに、不思議なことに「ちょっとだけあの部分、どんな響きになるか1回だけ触ってみようかな」と、自然にやる気の火種が戻ってくることも珍しくありません。

休むことも長く続けるための選択肢にする

「練習を1日サボると、取り戻すのに3日かかる」という厳しい言葉を聞いたことがあるかもしれません。しかし、大人のアマチュアのピアノライフにおいて、そのプレッシャーは百害あって一利なしです。本当に弾きたくないときは、思い切って完全にピアノのことを忘れ、堂々と休むことも、末永く音楽を愛し続けるための立派な戦略です。

補足解説

毎日必死に練習を義務づけていると、心が「ピアノ=苦痛なもの」と学習してしまい、最終的には楽器を見るのすら嫌になって完全に辞めてしまうという、一番悲しい結末を招きやすくなります。大人が趣味でピアノを弾く上で最も優先すべき目標は、数週間で曲を仕上げることではなく、5年後も10年後もピアノが自分の人生の素敵なパートナーであり続けていることです。そのためには、心が疲弊したときに「勇気を持って休む」という引き出しを持っておくことが不可欠になります。

今日1日全くピアノに触れなかったからといって、これまで積み上げてきた技術がすべて消えてなくなるようなことはありません。むしろ、3日ほど完全に楽器から離れて趣味の時間を過ごしたり、のんびり眠ったりした後で、久しぶりにピアノの前に座ってみると、あんなにもつれていた指がなぜか驚くほどすんなりと動き、複雑だったリズムが頭の中で綺麗に整理されていることに驚くことがよくあります。休んでいる間に、脳がバックグラウンドで記憶の整理整頓を完了させてくれたのです。休むことは、後退ではなく、次に大きくジャンプするための大切なタメの、いわば充電の時間です。「あえて今日は休むぞ」と自分で前向きに決めて、ピアノの蓋を閉める。このしなやかでマイペースな割り切りができるようになることこそが、大人になってから楽器を無理なく、そして一番早く上達させるための隠れたコツなのです。

まとめ|ピアノとの距離感を自分でコントロールしよう

ピアノとの付き合い方は、常に全力疾走でなければいけないわけではありません。自分のその日のエネルギー残量に合わせて、時には激しく弾き込み、時には音楽を聴くだけにとどめ、時には完全に離れて羽を伸ばす。その距離感を自分で自由に、わがままにコントロールして良いのです。

補足解説

ピアノを習っていると、「先生に次のレッスンで褒められたい」「早くあの憧れのポップス曲を友達に聴かせたい」と、どうしても外側の視点や結果ばかりに意識が向いてしまいがちです。しかし、ピアノの蓋を開けるのも、閉めるのも、すべての決定権はあなた自身にあります。やる気が出ない日がある自分を優しく許し、軽い関わり方でやり過ごしたり、完全に充電にあてたりする工夫を重ねていくことで、あなたのピアノライフは義務感から解放され、本当の意味で自由で心地よい、あなただけの居場所になっていくはずです。他人の練習量や上達スピードと自分を比べて焦る必要はまったくありません。細く、長く、時々休みながらでも、あなたがピアノの音色を「心地よい」と感じるその気持ちを一番大切にしながら、今日という日をあなたなりのペースで過ごしてください。気が向いたときに、またいつでも、ピアノは変わらない美しい音であなたを待っています。

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