~どちらが「より良い」のかを徹底考察~
ピアノを選ぶ際、「グランドピアノが理想」と考える人は多い。しかし、ピアノ調律師の中には「グレードの高いアップライトの方が、小型グランドより優れている」と主張する者もいる。一方で、あるピアノ指導者は「小型でもグランドピアノの方が良い」と断言する。果たしてどちらが正しいのか。このテーマを様々な角度から深く考察し、丁寧に掘り下げてみよう。
1. アクションの違い ~グランド vs アップライト~
ピアノのアクション(鍵盤を押してから音が出るまでのメカニズム)は、演奏の感触や表現力に大きな影響を与える。基本的に、
- グランドピアノはダブルエスケープメント機構を持ち、連打性や細かいニュアンスのコントロールがしやすい。
- アップライトピアノは垂直方向のアクションのため、重力の影響で鍵盤の戻りが遅く、速い連打や繊細な表現にはやや不利。
しかし、高級アップライト(Yamaha YUSシリーズ、Shigeru Kawai Kシリーズ、C. Bechstein Concert 8 など)には、特別なアクション設計が施されており、一般的な小型グランドピアノ(Yamaha GB1K, Kawai GL-10 など)と遜色ないタッチを実現しているものもある。
ここでの論点は、「アクションの質」という観点ではグレードの高いアップライトが、小型グランドに匹敵する可能性があるという点だ。しかし、「重力の作用を活かせるダブルエスケープメントがあるか」という点では、グランドピアノに軍配が上がる。
2. 音の響き ~響板と弦の長さが決めるもの~
音の質を決める重要な要素のひとつに、響板の面積と弦の長さがある。
- グランドピアノは横向きに配置された響板を持ち、音の広がりが豊かで自然な減衰を生み出す。
- アップライトピアノは響板が垂直のため、音が壁に反射しやすく、減衰の仕方が異なる。
しかし、小型グランドの場合(特に150cm~160cmのベビーグランド)、弦の長さがアップライトと大差なく、響板のサイズも限られる。そのため、
- 170cm以上の高級アップライトの方が、150cmのベビーグランドよりも音の響きが豊かである場合がある。
ただし、グランドピアノ特有の「音の広がり」と「音の減衰の自然さ」は、いくら高級なアップライトでも再現が難しい。これは、グランドピアノの響板の向きと、天板を開けることで生まれる音の解放感によるものだ。
3. ペダルの違い ~ソステヌートペダルの有無~
グランドピアノにはソステヌートペダル(中央のペダル)があり、任意の音だけを保持することができる。しかし、アップライトの中央ペダルは「弱音ペダル」であることが多く、実際の演奏技術の幅が狭まる。
この点において、表現の幅という意味では小型でもグランドの方が優れている。
4. 空間と実用性 ~設置しやすさとメンテナンス~
小型グランドピアノを選ぶ際の現実的な問題として、
- 設置スペースがアップライトに比べて大きくなる。
- 定期的な調律や湿度管理がより厳密に求められる。
特に日本の住宅事情を考えると、
- 170cm以上の高級アップライトの方が省スペースで設置しやすい
- 小型グランドピアノはスペースと防音対策が必要になる
そのため、限られた空間での運用を考えると「高級アップライト」の方が現実的な選択になるケースも多い。
5. 「ピアノを学ぶ」という視点 ~グランドの感覚を身につけるべきか?~
ある有識者が「小型でも良いからグランドが良い」と言う理由は、
- 「ピアノ演奏の基本はグランドであり、最初からその感覚に慣れるべき」
- 「アップライトでは再現できない、グランド独自のタッチや音の広がりを体験すべき」
という点にある。たとえば、音大や演奏会で使うのはグランドピアノであり、最初からその感覚に慣れていれば、後々の演奏にもプラスになる。
一方、調律を学ぶ人が「高級アップライトの方が良い」と言うのは、
- 「小型グランドは限界があり、むしろしっかり設計された高級アップライトの方が音質的に優れている」
- 「グランドを買うなら、ある程度のサイズが必要。中途半端なグランドなら高級アップライトの方が実用的」
という実務的な観点からの意見だ。
【結論】どちらを選ぶべきか?
① 演奏表現を重視するなら、小型でもグランドピアノ
- グランド特有のアクションと音の広がりが得られる。
- ペダルの機能性もグランドの方が優秀。
② 音質を重視し、設置スペースや予算が限られるなら、高級アップライト
- 170cm以上のアップライトなら、小型グランド以上の音質になる可能性も。
- 設置しやすく、メンテナンスも比較的楽。
結局のところ、何を優先するかで結論は変わる。とはいえ、演奏家を目指すなら、グランドの感覚に慣れるためにも「小型でもグランドピアノ」という師匠の意見には強く頷けるものがある。
あなたにとっての「最良のピアノ」は、どちらだろうか?
0件のコメント